DOI(デジタルオブジェクト識別子)システムの概要
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このページはINFOSTAが発行する『情報の科学と技術(1999年1月号)』に掲載される私の論文をもとに構成してあります。 長谷川豊祐 HASEGAWA, toyohiro  c05119@simail.ne.jp


抄録:Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子:DOI)は,URLの一過性を克服し,どのような微細なレベルでもデジタル媒体を識別し,提供することを意図している.DOIシステムは,情報仲介業者を経由せず顧客と出版社を直結し,電子商取引を促進し,著作権管理システムを実現する.DOIシステムは,LLからオンラインカタログまで,図書館サービスへの大きな効果を約束する.

The Digital Object Identifier (DOI) system has been designed to overcome the impermanence of URLs and to identify and track digital media at any desired level of granularity. The DOI System has been designed to link customers with publishers, facilitate electronic commerce, and enable copyright management systems. Widespread implementation of this system promises to have a profound effect on library functions and services, from ILL to online catalogs.

キーワード:デジタルオブジェクト識別子,DOI,雑誌識別コード

Key Word:Digital Object Identifier,DOI,Serials identifire code


1.はじめに

 1997年のフランクフルト・ブック・フェアで公開された Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子:DOI)システムは,デジタル化された論文や図・表などの著作物をインターネットのブラウザーによって,利用者に直接届けるためのシステムである.DOIシステムには,国際的な科学,技術,医学(Scientific, Technical, and Medical:STM)分野における学術雑誌の出版社などが参加している.

 学術雑誌の論文,抄録,図・表などのデジタル著作物は,各社のサーバーに分散して蓄積され,それぞれ識別コードのDOIと,出版社のサーバ内における著作物の位置を示すURLをもっている.利用者のブラウザーに表示されたDOIは,DOIからURLへの変換を行うDOIディレクトリによってURL変換され,著作物の蓄積されているサーバーから,著作物が利用者に送り返される.DOIが先進的な点は,実際に蓄積した著作物を使ってシステムを稼働した点にあり,これからの展開が期待される.

 デジタル著作物の流通と権利処理の自動化を行おうとするシステムがDOIシステムであり,DOI自体は,ネットワーク情報資源のメタデータの1要素であるResource Identifierの項目に,URL,URN,ISBNなどと一緒に記述される単なる識別コードである.

 本稿では,雑誌識別コードの歴史と,DOIシステムの概略を紹介し,著作権処理の動向とDOIシステムの課題をまとめる.


2.雑誌識別コードの歴史

 雑誌のタイトル,号,論文,抄録,章,図・表を識別するコードには以下【表1】のものがある.
【表1:雑誌識別コードとその適応範囲】
識別コード 開始年 識別範囲 国内  
学術誌
国内  
一般誌
外国  
学術誌
外国  
一般誌
縁書き  
書誌票
1928(独)  
1956(ISO)
× ×
雑誌コード 1968(日) × × ×
CODEN 1963(CAS) タイトル × ×
ISSN 1972(ISO) タイトル × ×
SICI 1991(ANSI/NISO)  
Ver.2 1996
号,論文 × × ×
PII 1995(Elsevier) 論文 × × ×
DOI 1997(IDF) 論文,抄録,  
章,図・表
× × ×
 タイトルレベルの識別には,CODENやISSNが用いられる.CODENは,タイトルレベルで逐次刊行物を識別するISSNと同様に,逐次刊行物をタイトルレベルで識別するコードで,タイトルの英語形から作られる簡潔な6桁の英数字のコードである.当初(1963年)はアメイリカ材料試験学会(ASTM)が科学技術関係の逐刊に付与していたが,1975年からはChemical Abstracts Survice (CAS)に登録管理機関がおかれて現在に至っている.「日本化学会誌」のCODENは”NKAKB8”,ISSNは”0369-4577”となっている.ISSNは適用範囲を電子媒体にも拡大し,電子雑誌にもISSNが付与されるようになっている.

 号レベルの識別コードには,すでに規格としては廃止されているが,ドイツ規格の Ordnungs-leiste(縁書き)をもとにつくられた国際規格であるBibriographical Strip(書誌票)が,”オンライン検索(ISSN0286-3200)18(3/4):91-172, 東京, 1997.09/12”のようなスタイルで現在もごく少数の雑誌の表紙に表示され続けている.戦後の学術雑誌の復興期に紹介された「縁書き」は,巻数,号数,頁数を省略して表示するスタイルが国内に定着し,”薬誌 Yakugaku Zasshi”,”鶴見歯学 Tsurumi Univ. Dent. J.”など,タイトルレベルの識別コードとして多くの国内学術雑誌の表紙に表示され続けている.

 一般の書店やコンビニで販売される雑誌に表示される「雑誌コード」◆1)は,日用雑貨や食料品に表示されるJANバーコードシンボルと同じ形式で表示され,小売りの現場でPOSシステムに組み込まれて実稼働している.

 アメリカ国家規格であるSICI(Serial Item and Contribution Identifier:ANSI/NISO Z39.56-1996)◆2),3)は,号と論文の両方のレベルを識別できる.号レベルの識別は,逐次刊行物の受入,発注,欠号依頼のEDI(電子的データ交換)における識別コードとして利用される.SICIは雑誌の表紙にバーコードシンボル表示され,バーコードリーダーを用いた受入業務の自動化に貢献することが可能になっている.論文レベルのSICIは,ドキュメントデリバリーや著作権処理の際のコードとして利用できる.

 PII(Publisher Item Identifier)は,雑誌の編集・制作段階から論文を識別するためにElsevier社などが採用している識別コードである.SICI(Ver.1 ANSI/NISO Z39.56-1991)では,論文レベルの識別のために当該の号の掲載ページ数が必要だったが,PIIはある号の何番目の論文という識別コードで,編集,印刷段階の作業から識別コードとして機能する.このPIIの方式は,現在のSICI(Ver.2 ANSI/NISO Z39.56-1996)には取り込まれている.

 識別コードは,識別レベルをより詳細なレベルまで拡大し,さらに,その識別対象の媒体を電子媒体にまで拡張してDOIに至ったといえる.


3.DOIシステムとは何か

 Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子:DOI)は,URLの一過性を克服し,どのような微細なレベルでもデジタル媒体を識別し,提供することを意図している.DOIシステムは,情報仲介業者を経由せず顧客と出版社を直結する.DOIシステムは,電子商取引を促進し,著作権管理システムを実現するために,Corporation for National Research Initiatives(CNRI)の協力で,Association of American Publishers(アメリカ出版協会:AAP)により考案された.DOIシステムは,The International DOI Foundation(国際DOI財団:IDF) <http://www.doi.org/が管理している.1997年7月のプロトタイプへの参加出版者(Publisher)は,Academic Press, Authors' Licensing and Collecting Society, Copyright Clearance Center, Elsevier, Houghton Mifflin Company, International Publishers Association (IPA), John Wiley & Sons, Shepard's, Springer-Verlag であった.DOIシステムは,現在1ダース以上の米国や欧州の出版社によってデモンストレーションされている.DOIシステムの実効は広範囲に及ぶことが予想され,ILLからオンラインカタログまで,図書館機能と情報提供サービスにたいしても大きな効果が期待されている.

 DOIシステムは,1997年7月からプロトタイプが開始され,1997年10月のフランクフルト・ブック・フェアにおいてすべての出版社に公開され,現在に至っている.DOIシステム管理機関であるIDFや関連団体から,DOIシステムに関する文献がインターネット上で数多く出版(publish)されている.IDFの評議会にはWindowsのマイクロソフトなども名を連ねており,出版業界に限定されないデジタル技術ビジネスや著作権ビジネスまでがDOIシステムの可能性に注目している.


4.DOIシステムのしくみ

 DOIシステムは,「著作物を識別するDOI」「DOIを著作物の所在場所を示すURLに変換するディレクトリサーバー」「著作物を蓄積する出版社のサーバー」で構成される.利用者は4つの段階を経て文献を入手することになる.【図1】
  
【図1:DOIシステムの仕組み】

1)利用者は,メールで送られてくる文献案内や,出版社のサーバー上にある電子雑誌の参考文献リストなどをブラウザーで表示する.文献リストの個々の文献には,DOIボタンが埋め込まれているので,入手したい文献のDOIボタンをクリックする.

2)DOIがディレクトリサーバーに送られる.

3)ディレクトリサーバーはDOIに対応するURLを出版社のサーバーに送る.

4)出版社のサーバーは,利用者の望んだ文献を利用者に送り返し,利用者は求める文献をブラウザーで表示するか,ダウンロードして利用する.

 インターネットでは,著作物の所在場所を示すURLの変更は日常的に起こる.そこで,不安定なURLで著作物の所在を示さず,利用者に提供するのは決して変更されないDOIとし,DOIとURLの変換を行うためにDOIディレクトリを設けてある.出版社が著作物のサーバー内でのアドレスを変更した場合は,DOIディレクトリのその著作物のURLを変更する.また,著作権が別の出版社に売買された場合は,新たな所有者がDOIに対応する新たなURLをDOIディレクトリに登録する.このように,DOIとURLの対照データベースであるディレクトリサーバーが,著作物の蓄積場所の変更を吸収する仕組みである.

 DOIが識別する著作物には,図書や雑誌の一冊,個々の論文や章,論文に含まれる抄録,図,表,化学構造式,参考文献,音声,映像などがある.さらに,著作物の注文様式や,情報の一部分の使用許諾登録書などもDOIの対象となる.

 DOIはISBN◆4)と比較すると理解しやすい.DOIはISBNと同様に,「prefix: 接頭辞; DOIシステム管理機関が発行する出版社コード」と「suffix: 接尾辞; 出版社自身が付与する文献識別コード」の2つの部分で構成される.prefixは,DOIシステム管理機関が発行する出版社コードである.suffixは,出版社自身が付与する文献コードである.DOIは,それ自体からは何の意味も読みとれない英数字の文字列である.【図2】
 

【図2:DOIの形式】

 雑誌論文のDOIにSICIを使う場合は,

”10.1002/0002-8231(199601)47:1<23:TDOMII2.0.TX;2-2”となる."10.1002"はDOIシステム管理機関が付与する prefixである."10"はディレクトリサーバーの番号で,出版業界以外のディレクトリが立ち上がれば別の番号が与えられる."1002"は出版社コードである.”/”は prefix と suffix の分離記号.”0002-8231(199601)47:1<23:TDOMII2.0.TX;2-2”は出版社自身によって付与される suffix である.suffix の部分はオブジェクトを識別できる英数字であればどのようなものでもかまわない.

 ISWC (International Standard Work Code:ISOで審議中)をDOIとして使う場合は,”10.054/142756081ISWC-L-054.000.015.4”となる.

 DOI以外にも多くの識別コードがある.◆5)

BICI(Book Item and Contribution Identifier:NISOで審議中),ISAN(International Standard Audio Visual Number:ISOで審議中),ISBN,ISMN(Documentation -International Standard Music Number:ISO 10957:1993),ISRC(International Standard Recording Code:ISO 3901:1986),ISRN(International Standard Technical Report Number:ISO 10444:1997),ISSN,URN(Uniform Resource Names:The Internet Engineering Task Force (IETF))などがある.

 出版社は,出版社コードの取得,維持のために1,000ドルを,DOIシステム管理機関に支払い,出版する個々の文献に出版社が自らDOIを付与する.ここまではISBNと同様である.DOIがISBNと大きく異なるのは,DOIに対応する「著作物の所在場所」のデータベース(DB)を,出版社自身が作成・維持する点である.このDBはDOIシステム管理機関のサーバー上で運用される.また,この時点では,コード1件に対して1セントと規定され,コード1件毎に維持費がかかる点はISBNと異なる.


5.デジタル著作物の権利処理と流通

 「デジタル化された著作物では,著作物を劣化させることなくオリジナルの著作物と全く同じ複製物を,誰でも,簡単に,安価に,迅速に,大量につくることができる.著作物の無断利用やコピーを問題にするより,権利者の権利侵害から権利者の権利実現に発想を転換すべきである」◆6)との指摘もあることから,著作物の仲介業者である図書館も,近い将来にはデジタル著作物の権利使用料を積極的に支払う方向に図書館サービスを転換する必要に迫られるだろう.

 「デジタル著作物の権利処理と流通」では他のプロジェクト◆7)も進められていて,技術的,経済的,法的◆8),9)な課題に取り組んでいる.出版産業から提案されたDOIシステムは,分散して蓄積されているデジタル著作物に識別コードをつけ,その所在場所を示すシステムであり,「権利処理と流通」における技術的側面の一部分を第一段階としてクリアした.今後,「権利処理と流通」の経済的,法的,技術的側面を,ユーザーと協力して実証的に解決されることが期待され,出版産業が音楽・映像産業とともに著作権システムでイニシャティブをとる可能性も考えられる.


6.DOIシステムの利用と課題

 DOIを実際にどのように使うのかは,IDFの DOI Gallery のコーナーから,DOIシステム参加出版社の提供するDOIシステムを体験できる.DOIの埋め込まれたページから,DOIをクリックしていくつかの文献の全文を表示させるコーナーを設けている出版社もある.John Wiley & Sons社は,IDFの DOI Gallery のコーナーから自社の電子雑誌のサーバーに導き,そこで30日間の期間限定の無料体験登録を行う.登録がすむと,1996年以降の目次と抄録,1997年以降の全文献のPDFファイルの約7万件を閲覧,ダウンロードできるようになる.

 ”In search of the unicorn: the DOI from a user perspective”◆10)では,DOIシステムを利用する4つの場面を,以下のように想定し,必要な環境と問題点も指摘している.

a)学術研究機関に所属する研究者は,あらかじめ設定しておいたテーマに関して,電子メールで届けられる文献リストからDOIをクリックして,研究室から一歩も出ることなく必要な文献を入手し,料金は自動的に決済される.

b)マルチメディア歴史ガイドをつくろうとしている小さな出版社では,著作権者の異なるいくつものデジタル画像や,音楽を「一つの窓口」(DOIシステム)から権利処理をも済ませて一度に入手できる.

c)最近聞いた音楽の一小節が気に入った音楽愛好者は,最寄りの公共図書館に行って作者のプロフィールと曲へのDOIのリンクを検索し,プロファイル文献をダウンロードして,端末のヘッドフォンから曲を試聴した後,利用料金をその端末からクレジットで決済する.

d)大学の教授から教材として使うために,異なった出版社の何本かの雑誌論文をまとめたテキストをネットワーク上に構築するよう依頼された図書館員は,DOIシステムにより”electronic course pack”を著作権をクリアして,簡単に作り上げることができる.

 DOIシステムに関しては,技術的な側面への取り組みが出版社サイドから開始されたため,法的,経済的面での取り組みや実際の運用に関しては今後の課題となっている.技術的な面に限ってもいくつかの課題が存在する.◆11) a)DOIが膨大な数になったときにDOIディレクトリの許容量は大丈夫か.

b)メタデータは何を使うのか.

c)形式(TIFFやPDF)やヴァージョン(改訂や翻訳)をどう扱うか.

d)分散した著作物の検索をどのように統合して行うのか.

e)検索と提供システムの統合はどうなるのか.

f)デジタル著作物へのアクセスはいつまでも保証されるのか.

g)著作権の譲渡に対応できるか.

h)出版社主導で問題ないのか.

i)経済モデルのない技術導入でよいのか.

j)著作物単位に支払いをする”pay per view”にユーザーが適応するのか.

k)権利や利用の許諾管理はどのように行うのか.

 これらの課題は,DOIシステムの本格稼働や,他のデジタル著作物の流通と権利処理システムの今後に待つしかないだろう.


7.おわりに

 ネットワークやデジタル環境の大きな進展や,DOIシステムの実現により,500年続いた紙による出版と流通の仕組みが大きく変わる可能性◆12),13),14)がある.電子的な学術情報流通サイクルにおける「情報の仲介者:代理店,書店,図書館」の役割は再編成される.代理店や書店は,ネットワークによるフルテキストサービスに乗り出し◆15),16),新たな役割の創出に努めている.

 ネットワーク情報資源の組織化◆17)は誰がどのように行うべきなのか.電子雑誌のインターフェースは紙より優れているのだろうか.読む側は,パソコンやネットワークを準備しなければならないが,その費用負担は出版社の流通経費の肩代わりではないのか.いっそのこと,もっと大胆にネットワーク化へ踏み出したほうがよいのだろうか.

 予算削減や職員の異動・減員など,図書館をとりまく環境が厳しくなるなか,新たなデジタル化への対応を迫られて,図書館の悩みは尽きない.図書館が果たしていた「文献の保管・提供」と,ILLなどによる「文献調達」の2つの役割は,電子的な学術情報流通サイクルでは不要となる.医学文献のオンラインデータベースであるMEDLINEの検索結果にDOIが埋め込まれてしまえば,医学図書館の主なサービスは図書と国内雑誌の提供だけになってしまう.

 このような状況に直面した図書館は,従来から行っていた「紙媒体資料の保管・提供」と,これから急展開が予想される「デジタル情報・知識の検索・入手・加工」の2つを使命として生き残って行くべきである.社会的に評価されるためには,職員の能力開発を最優先し,関連業界とも提携し,積極的にサービスを高度化する必要がある.図書館と関係の深い出版業界から提案されたDOIを積極的に支援し,21世紀のISBNとして定着する手助けをすることも,そのための一つの方策として認識すべきである.


参考文献

1)共通雑誌コード登録とソースマーキングのガイド. 東京, (財)流通システム開発センター流通コードセンター, 1991, 29p.

2)Serial item and contribution identifier (SICI). NISO Press, 1997, 23p.(National information standards series ; ANSI/NISO Z39.56-1996)(A revision of Z39.56-1991)(Also available at http://sunsite.berkeley.edu/SICI/)

3)長谷川豊祐. 逐次刊行物の識別コード--biblidとSISACコード--. 情報の科学と技術. Vol.42, no.5, p.422-427 (1992)

4)松平直壽. コードが変える出版流通:ISBNのすべて. 日本エディターズスクール出版部, 1995.3. 148p.

5)Green, Brian; Bide, Mark. Unique identifiers: a brief introduction. London, Book Industry Communication. September 1996, revised March 1997. Available at http://www.bic.org.uk/bic/uniquid

6)マルチメディア時代における著作物の権利処理と流通に関する総合的研究 (NIRA研究報告書 No.970101). 総合研究開発機構, 1997, 171p.  

参照:比較法研究センター コピーマート 
 本書は,デジタル化された著作物やその著作権が自由に取引される市場としての「コピーマート(Copymart)」(北川善太郎京都大学名誉教授が提唱している権利処理の法モデル)を法律・技術的側面から検討した報告書である.概要を以下に紹介する.
1.情報社会

 デジタル技術により著作物を容易に複製できるようになると,アナログ時代の著作権法の範囲を超える法律上の問題が生じる.

2.コピーマート

 マルチメディア時代における著作物の流通のための法モデルであるコピーマートの概要説明が行われている.

 コピーマートは2種類のデータベース(DB)で構成される.著作権DBの著作権マーケット(copyright market)と,著作物DBの著作物マーケット(copy market)である.コピーマートではネットワーク上でコンテンツが取引される.著作物DBは分散型が適している.

 コピーマートに登録される著作物に関しては,管理のために標準化されたコードをつける必要がある.このコピーマート・コードには,著作物,権利,利用に関する情報が含まれる.

3.コピーマートのシステム契約

 権利者が自分の著作物をコピーマートに登録する際の契約には,2つのDBの管理,提供がある.

 利用者とコピーマート主催者との利用に関わる契約には,2つのDBへのアクセス契約がある.

 権利者と利用者との取引に関わる契約には,利用のライセンス契約がある.

4.著作物の提供契約に関わる諸問題

 著作物の提供形態には,無償提供,有償提供,著作権利用などがある.

 DBへの蓄積・転送に関わる複製権,送信権の問題.

 電子商取引による代金決済システムの仕組み.

5.著作権市場の関係者

 コピーマート主催者,著作物の権利者,著作物の利用者の3者がいる.

6.著作権とコピーマート

 コピーマートへのアップロード,著作物の二次使用,利用者によるダウンロード,改変,など,著作権との関係はどうなるのか.

 仲介業務法との関係はどうなのか.同法は,小説,脚本,歌詞,楽曲に適用され,学術論文,写真,映画,プログラムなどの著作物には適応されない.コピーマートは仲介業か.

7.オペレーターとしての法的責任

8.関連プロジェクト

 欧州委員会のESPRIT(エスプリ)プロジェクト:European Strategic Programme of Research and Development in Information Technology.[p.119-123]

 超流通:森亮一筑波大学名誉教授によって1983年から提唱.利用時点で課金する.コピーのコピーにも課金が可能になる.[p.119-123]

9.関連ビジネス

 マイクロソフト社の関連会社であるコービス社は,美術品,写真のデジタル化権・出版権を買い取り,デジタルアーカイブの構築を進めている.

10.コピーマートに関連する技術

 複製防止,改変防止,契約に関する技術と課金システム,検索など.

11.インターネットにおける情報と著作物取引

 情報と著作物の区別が明確でない.

12.コピーマートに係わる今後の研究課題      ↑6) 

7)中野潔. 知的財産権ビジネス戦略--情報立社時代の著作権ビジネス百考--. オーム社, 1997.11, 246p. ISBN:4-274-94856-0
 XANADU(ザナドゥ)プロジェクトは,セオドア(テッド)・ネルソン慶應大学湘南藤沢キャンパス客員教授<URL: http://www.sfc.keio.ac.jp/~ted/によって1960年代に提唱された.世界の書物をコンピュータに入力し,ハイパーリンクで結び,ネットワークを通じて世界の人々が自由に検索し,呼び出せるようにする.TRANSPUBLISHINGは電子文書Aが他の電子文書Bを引用すると,引用箇所はBより転送され,利用料がBの著作者のもとにはいる.TRANSCOPYRIGHTは,TRANSPUBLISHINGにおける権利概念である.[p.90-91]
8)山本隆司訳. 情報社会における著作権および関連権 欧州委員会グリーンペーパー(1995年7月19日). 著作権情報センター, 1995.10, 104p.

9)山本隆司訳. 知的所有権及び全米情報基盤: 知的所有権作業部会報告 米国ホワイトペーパー(1995年9月).著作権情報センター, 1995.12, 208p.

10)Bide, Mark. In search of the unicorn: the DOI from a user perspective. British National Bibliography Research Fund Report, Nov. 1997. <URL:http://www.bic.org.uk/bic/bicinfo.html >

11)Morgan, Cliff. The DOI(Digital Object Identifier). Serials. Vol.11, no.1, p.47-51 (1998.3)

12)津野海太郎. パブリッシングはどこを目指すのか?目指すべきなのか?. In. デジタルで変わるメディアビジネス. エムディーエヌコーポレーション, 1998.6, p.281-297 (1998.6)

13)藤原鎭男. 科学出版への提言. stm Japan news. No.7, p.1-2 (1998.8)

 学術出版の商品は少量,多種,多品目で顧客も分散しており,地方の公共図書館,高等教育機関の学生,一般知識人が新たな顧客となる.
14)樋口清一. 接近する電子図書館と出版社の役割. 大学図書館研究. No.52, p.8-10 (1997.12)
 流通コストを負担するのは誰か.物流は取次と書店,二次的流通は図書館と古書店が担ってきた.[筆者コメント:図書館の役割はコンソーシアムの設立し,コンソーシアムを通じて,構成員のために,リーズナブルな価格で,著作物を流通させることである]
15)The Future of Electronic Information Intermediaries : a survey undertaken by DJB Associates on behalf of UKSG and JISC/ISSC. UKSG [1996.9] 337p.

16)Machoves, George S. Electronic journal market overview-1997. Serials review. Vol.23, no.2, p.31-44 (Summer 1997)

17)永田治樹. ネットワーク情報資源の書誌コントロールとメタデータ形成. In. 日本図書館学会研究委員会編集. 論集・図書館情報学研究の歩み 第15集 ネットワーク情報資源の可能性. 日外アソシエーツ, 1996.1. p.134-164.(永田治樹. 学術情報と図書館. 丸善, 1997.5 に再録)


DOIに関する文献

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Lynch, Clifford. Identifiers and their role in networked information applications. ARL: a bimonthly newsletter of research library issues and actions. No.194 (Oct. 1997).

Paskin, Norman. Digital information objects and the STM publisher. STM Annual Report 1997.

A guide to using Digital Object Identifiers: for creators, publishers, and information providers. [Last updated: October 10, 1997. Cited 1998.2.14].

Bernstein, Paula. DOI: a new identifier for digital content. Searcher: The magazine for database professionals, Volume 6, Number 1, January 1998.

佐藤政次. What's DOI?/「DOIって何?」. stm Japan news. No.5, p.1-3 (1997.12)

◆出版社の思惑:pay per view

the Chronicle of Higher Education Web Page about the experiment "Paying by the Article, Libraries test a new model for scholarly journals?" http://chronicle.com/free/v44/i49/49a02101.htm [From: ERCELAA@ctrvax.Vanderbilt.Edu To: SERIALST@LIST.UVM.EDU Date: Wed, 12 Aug 1998 11:24:51 -0500 Subject: Paying by the article (Anne Frohlich)]

尾城孝一. 英国の大学図書館における電子的情報サービスの進展. 大学図書館研究. No.52, p.36-51 (1997.12)

北川善太郎. 情報社会とコピーマート(コピーマート:著作物の権利処理と流通に関する一提言). NIRA政策研究 [ISSN:09146172] (総合研究開発機構) 10(12) 1997.12 p4-9

北川善太郎;木下孝彦. 著作権とコピーマート(コピーマート:著作物の権利処理と流通に関する一提言). NIRA政策研究 [ISSN:09146172] (総合研究開発機構) 10(12) 1997.12 p10-15

北川善太郎. コピーマートにかかる今後の研究課題(コピーマート:著作物の権利処理と流通に関する一提言). NIRA政策研究 [ISSN:09146172] (総合研究開発機構) 10(12) 1997.12 p46-47

北川善太郎;端信行. 「コピーマート」で広がるマルチメディア時代の著作物利用(コピーマート:著作物の権利処理と流通に関する一提言). NIRA政策研究 [ISSN:09146172] (総合研究開発機構) 10(12) 1997.12 p48-55

北川善太郎. 電子著作権管理システムとコピーマート(情報処理最前線). 情報処理 [ISSN:04478053] (情報処理学会 オーム社) 38(8) 1997.8 p663-668

北川善太郎. マルチメディアと著作権――コピー・マート(COPYMART):著作権市場論(情報通信新時代の胎動――マルチメディアをマルチに展望する<特集). 電子情報通信学会誌 [ISSN:09135693] (電子情報通信学会) 77(9) 1994.9 p933-935

北川善太郎(京大法学部長). 技術革新が生む「異常な不協和音」―摩擦を超える日本型普遍主義を目指して(特集・第3次産業革命の中の知的財産権). エコノミスト 67(39) 1989.9.19 p50-54

抄録:普遍主義と多元主義.2つのイデオロギーが共存するところに,対立や摩擦を超えた普遍主義型の法理論が見いだせるのではないか.それは知的財産権法制にもあてはまる.
江口愛子. メタデータとコンソーシアム:第10回国立大学図書館協議会シンポジウムに参加して(報告). 医学図書館. Vol.45, No.2, p.249-254 (1998.6)

Technology Update: Digital Object Identifiers. Online & CD-ROM Review. Volume 22 Number 2 April 1998 page 115-118

C. Clissman. The UNIverse Project: state-of-the-art of the standards, softwares and systems which will underpin the development. Part 2: record syntax conversion, result set de-duplication, and multilingual thesauri. New Library World. Volume 99 Number 1 1998 page 10-19

Abstract: Provides a brief introduction to the UNIverse Project and its major objectives. Continues the overview of the international standards, softwares and systems which will enable bibliographic searching of multiple distributed library catalogues. Part 2 reviews three further areas: record syntax conversion which covers UNIMARC, SGML and Dublin Core; result set de-duplication, covering International Standard Book Number (ISBN), International Standard Serial Number (ISSN), the Universal Standard Bibliographic Code (USBC), Serial Item and Contribution Identifier (SICI), Digital Object Identifiers (DOI) and Uniform Resource Names (URN); and multi-lingual thesauri.
Andy Powell. Collecting numbers : Andy Powell of Ukoln describes a new item numbering system (Digital Object Identifier - DOI) which may soon affect libraries. Library Technology ?? page 103-104

Tim Owen. Digital Object Identifiers aim to foil cyber-pirates. Information World Review. Number 131 December 1997 page 20

Peter R Young. Measurement of Electronic Services in Libraries: Statistics for the Digital Age. IFLA Journal. Vol.24, No.3, p.157-160 (1998)

Abstract: Conventional library statistics address a wide range of purposes and functions: administration and management; analysis and planning; policy development; and research. These library descriptive statistics reflect varying levels of comparability, consistency and comprehensiveness. However, agreement about timely, reliable, and relevant statistical information regarding electronic media resources and services in libraries has yet to emerge. This article raises questions and explores issues related to library measurement of electronic media and network services, and is primarily focused on public library Internet activity, although general issues are considered. The author also presents new challenges to existing systems, including shared/cooperative library arrangements for electronic services, digital object identifiers, and local and remote access to electronic services in libraries.
Team selected to develop digital object identifier system for publishing industry. Interlending & Document Supply. Vol.25, No.1, p.41 (1997)

Chaos:Is the Digital Object Identifier, the DOI, the Twenty-First Century ISBN? Against the Grain. Vol.10, No.2, p.90-91 (1998.4)

DOI Discussion Paper : DOI current position and future development path. 17 Aug 98 Ver.3

Information Identifiers Learned Publishing, 1997, Vol. 10 No. 2, pp 135-156; http://www.elsevier.nl/homepage/about/infoident/

●ネットワーク上の著作権保護,使用記録,課金に関するシステム:ECMS(Electronic Copyright Management System)

●原田勝. TP&Iフォーラムの最新号のデジタル情報の資料組織??