本と大学と図書館と 長谷川 豊祐(はせがわ とよひろ) 2019/04/05
本の紹介を交えて,大学と図書館と学生・教職員に,話題を広げます。
高等教育問題研究会・FMICS (フミックス) BIG EGG に連載

2019年04月号 -7- パンの哲学
 本よりも,学ぶことよりも,図書館よりも好きなものがあります。粉ものです。ラーメン,パスタなどの麺類,たい焼き,饅頭などの餡子とのコラボ,そして,パンです(米も大好きで産地直送のお米農家は20年以上の贔屓です)。一時期,テニスのジョコビッチで広まったグルテンフリーによるカロリー摂取の総量管理と,ウォーキングによるカロリー燃焼を組み合わせていました。
 近所の4キロ四方を歩いていると,季節の草花に目が留まりますが,美味しそうな食べ物も見つかります。ウォーキングは諸刃の剣です。パンの匂いに誘われ,店舗の外から店構えを吟味し,店員さんの動きをチェックし,客層を見極めます。1年ほど前に出会ったパン屋さんが,鵠沼海岸のQuinto(クイント)でした。雰囲気の良いイートインコーナーで,美味しいパンと,お気に入りの本の組み合わせは至福の時です。
 味も,食感も,接客も突き抜けています。進化と言えます。クルミとイチジクの組み合わせは普通にありますが,粉の種類と焼き方の組み合わせが違うのでしょう。カリッ,モチッ,フワァです。セコンドという食パンは,焼かないほうが好きだと,店長さんも,売り子さんも言います。確かにその通りです。フンワリとミルクの香りが鼻に抜けます。店員さんが「今日は,何を召し上がりましたか?」と,声をかけてくれます。
 お客さんの個体識別と,好みの把握も奨励されているようです。パン作りの職人であり,Quintoも含めた8店舗を構える経営者でもある森社長の書いた本では,人材育成,パンづくり,店づくりの哲学(Philosophy)が解説されています。
  森直史トラスパレンテのパン哲学: 人気店のこだわりレシピと店づくり
  (誠文堂新光社  2018 2400円+税)
 パン,お店,そしてスタッフへの温かい眼差しは,「スタッフ全員がいつも笑って働けること」と「スタッフに辛いことがあったらできるだけみんなで共有すること」(p.3)に言語化されています。パンの紹介がレシピの2倍もの量で解説され(p.14-167),僕は,その思いを頂けるのです。
 最後は,愛されるパン屋であり続けるために,「お客様が求めるものを」から「トラスパレンテのこれから」と「働くことの将来性」(p.168-187)で構成されています。
 僕は,明日も,本を片手に,このパン屋さんに通い続けるでしょう。本と大学と図書館は,愛され続けているのでしょうか?進化や哲学はあるのでしょうか?


2019年03月号 お休み


2019年02月号 -6- FGI
 新たなサービスや製品の開発や,顧客満足度調査ではアンケート調査やインタビュー調査が行われます。大学では学生生活実態調査を,図書館では利用者調査を頻繁に実施します。これらの調査結果は課題解決に役立っているのでしょうか?調査自体が目的化して,ユーザー志向であることのアリバイ工作や,調査者の自己満足に終わっていることはないのでしょうか?調査の集計結果・分析・対策が明記された報告書が公開されることも少ないのではないでしょうか?
 最近,図書館利用者調査に関わる機会がありました。その集計結果と分析概要の公開のされ方について,住民の立場から疑問を感じました。図書館の利用頻度や利用目的などの定量的な集計結果より,アンケート調査の自由記入欄が気になりました。住民の生の声が満載です。駐車場や駐輪場が足りない,バリアフリーが不十分という多くの声があります。一方,検索システムの仕組みに関しての少数(というより一つ)のレアな不満もあります。こうしたレアな声に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか?定量的に見て,少ないから無視という対応になってはいないでしょうか?
 レアな声の真相に迫るには,6名程度のグループによるFGI(フォーカス・グループ・インタビューインタービュー)が有効です。以下のプリンターに関する事例が,非常に納得できます。
 カラープリンタの満足度調査の「より印字速度を速く」への対応には,技術的・コスト的に大変です。FGIを実施して,「印字速度が遅い」を深く聞いてみると,インクがにじんだり,紙詰まりを起こしたり,何度も失敗して時間がかかるという状況が明らかになります。対応は,印字速度を速めるのをやめて,シートフィーダーの性能をあげたり,インクがにじまないようなものに変えることによって「印字速度が遅い」という不満を解消することになります。住民・生活者の言葉と,製品製造者・サービス提供者の言葉・感覚にギャップがあるのです。
 昨今,両者間のギャップは広がり続けています。ギャップを認識し,乗り越えるためにも,学生生活実態調査や図書館利用者調査において,FGIや定性調査がもっと活用されるとよいと考えるこの頃です。
 今月は自分の論文の紹介です。以下に公開しているのでご一読ください。そして,FGIやってみませんか?
長谷川豊祐. フォーカス・グループ・インタビューは利用要求を解明する. 現代の図書館. 2010, 48(2), p.78-88. http://toyohiro.org/BookUnivLib/fgi.pdf 
==今後の予定==
FMICS 2月例会(2/9)は「就活ルールの撤廃」です。残念ですが,施設管理・運営の「新しい複合施設図書館の建築と運営」で,図書館案件を優先します。
恒例の関西FMICS 3月FORUM(3/16-17 滋賀)には参加予定です。ご一緒しましょう。


2019年01月号 -5- 本を買う
 先月号で宮原さんが紹介された自伝『こころの風景』(北日本新聞社 1999)を起点に,芋づる式に資料を検索してみました。著者の吉枝喜久保氏は,K社の外商部門を立ち上げた方で,FMICSについても本書でふれられています(p.184-7)。検索したのは,大学で購入する本や雑誌は,K社やM社など,大手書店の外商を経由するので,流通の仕組みへの興味からです。
 波多野聖『本屋稼業』(角川春樹事務所 2016)が見つかりました。日本では本の売り上げが落ち込んでいるので,リアル書店で買おうとしましたが,歩いて行ける範囲の書店にも,隣駅の書店の店頭在庫にもありません。書店で注文して取り寄せると日数がかかり過ぎます。ネット書店には在庫があり,24時間,365日,何時でも,何処からでも注文可能です。しかし,アマゾン社以外のネット書店では送料の発生がほとんどです。店頭受け取りもできますが,在庫のある書店の方面に出かける用事がない限り,交通費がかかります。
 結局,歩いて10分のF市図書館の分館が所蔵しているので,そこで借りることにしました。「本屋が好き。本屋という景色が」,「本屋稼業が好きでたまらない」というセリフが心に響きます。本を買う方法は複数ありますが,この本だけはリアルK書店で買おうと決めています。ちなみに,ヒットしたW大学図書館紀要に掲載された論文は,フルテキストが公開されていて簡単に入手できました。
 さて,『こころの風景』の入手です。この本は絶版らしい上に,所蔵する図書館も遠く,アマゾン社のサイトから古書で買いました。在庫豊富,送料無料,早い到着で,買う際には最有力の入手先になります。活字離れだけでなく,アマゾン社の手軽さの反作用としてリアル書店が減り続けているのでしょう。易きに流されず,本を買うならリアル書店と自戒しているのですが・・・。
 本書の興味深い内容は,1)稀覯・大型のコレクションの納入,2)顧客である大学教職員の営業用データを蓄積したカード形式の得意先台帳の活用,3)大学新増設支援の様子,4)開学後の資料の一手受注を目指した目録カードの添付サービス,など。昭和30年代末からの第一次大学新設ブームの様子は,大学人としても興味深いでしょう。
 書店では,本が文化的側面を捨象した単なる商材として扱われることもあります。大学や図書館も同様に,電子メディアやICTの発達と,ユーザー要求の変容へ,真摯な対応が必要です。 


2018年12月号 -4- 情報リテラシー
(構成の不具合を修正して,最初のパラグラフを最後に持っていきました。再構成した結果,論文要約で情報リテラシーを磨けるものの,文書を読めないというリテラシー以前の問題や障害もある,としました。2019/01/17)
 新聞等でも話題の新井紀子著『
AI vs. 教科書が読めない子どもたち 』(東洋経済新報社 2018.2)では,学力以前に,教科書の文章を理解できていないので,アクティブラーニングも英語も順番が違うという主張が,特に印象的でした。問題文に出現する分からない漢字を飛ばして読むのでは,問題を理解していないことになります。解答が正答か誤答か,それ以前の問題です。
 読めない子どもが大人になり,指示や仕事の趣旨を理解できていない社会人になると感じるのは私だけでなないでしょう。これは,リテラシーの問題であり,特に最初の読みの障害でしょう。

 リテラシー(literacy:識字)とは,文章を読み,内容を理解し,文章を書き,計算すること,更に,それらができる能力を備えていることです。要するに,読み書き算盤です。Reading,wRiting,aRithmetic のRから,3R’s(スリーアールズ)とも,英語では言われます。特定の分野や対象を冠して「情報リテラシー」,「コンピュータリテラシー」,「メディアリテラシー」などのように用いられることもあります。
 10年前から「図書館・情報学」という科目を担当しています。授業目標は以下の3点です。一般教養的な内容で,社会人基礎力ともいえます。
a)社会生活における課題発見とその解決のために,情報を正しく理解して活用する能力を身につける。
b)情報活用能力を身につけるために,情報メディアと,情報の組織的な提供機関である図書館の基礎的な事項について,その特徴や仕組みを知る。
c)情報の収集・評価・発信の基礎的な演習により,情報メディアと図書館を活用するための理解を深める。
 この授業の演習の一つとして,学術論文を要約する課題を課しています。学術論文をインターネットや図書館から入手して,その内容を,目的,方法,結果,結論の4項目に再構成して,論文をコンパクトにまとめて書く課題です。この要約の課題を2回繰り返すので,論文の検索,論文の読み,内容の理解・評価,書くことに習熟する機会になります。
 選択した論文を読むことは,レポートや卒論を書く時の参考にもなります。良質な「読み」が,成果(書くこと)につながり,履修生に好評です。皆さんも,業務上で興味のあるテーマで論文を検索し,要約してみてはいかがでしょうか。リテラシーが向上すること請け合いです。
 新聞等でも話題の新井紀子著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社 2018.2)では,学力以前に,教科書の文章を理解できていないので,アクティブラーニングも英語も順番が違うという主張が,特に印象的でした。問題文に出現する分からない漢字を飛ばして読むのでは,問題を理解していないことになります。解答が正答か誤答か,それ以前の問題です。
 読めない子どもが大人になり,指示や仕事の趣旨を理解できていない社会人になると感じるのは私だけでなないでしょう。これは,リテラシー以前の問題であり,特に最初の読みの障害でしょう。


2018年11月号 -3- 引用分析とGoogle
 「もしわたしがきみだったら,細胞形質膜内にあるタンパク質の位置同定に役立つ,前田の濃度別遠心分離法の技術を,その後,誰が使ったか調べるため,『引用論文目録』から始めるね」と,ノーベル賞候補の細胞生物学者・カンター教授は,教え子のジェリーに指示します。『
カンター教授のジレンマ 』(カール・ジェラッシ著 文藝春秋 1994 p.62)に,こうあります。
 この本は教授と弟子のノーベル賞受賞のドタバタ小説で,改題改訳され,『
ノーベル賞への後ろめたい道 』(講談社 2001)としても出版されています。本の帯で「可愛すぎる学者」と表現される大学の研究者たちが,研究し,その成果を学術雑誌に投稿し,査読を経て掲載に至る学術情報流通の実態も描かれます。ジェリーと恋人の化学者,恋人の師匠とルームメイトの英文学者が4人で,学問分野の「しきたり」について論争もします。研究者の生態を赤裸々に描いた小説で,教員や研究を理解するうえで,大学職員の必読書です。
 『引用論文目録』とは,世界の大学ランキングにおいて,論文の引用数を算出するデータベース『Web of Science』のもとになった『Science Citation Index』(SCI)のことです。例えば,「2010年の前田論文の参考論文リスト」(A)は2010年以前の関連論文が遡って記載されます。一方,SCIは前田論文を引用している2010年以降の新しい論文とその参考論文リストの全部をデータとして搭載しているので,「前田論文を引用している論文リスト」(B)を生成できます。
 (A)は2010年以前の古い論文,(B)は2010年以降の新しい論文です。(B)から前田論文の展開を追えます。これが引用分析です。(B)から前田論文を引用している論文の数が「引用数」として算出され,同様に他の研究者の論文の引用数も算出されます。引用数の多い論文が,他の論文からの評価を獲得した,その領域の重要論文です。
 Google Scholarでも引用数はわかります。SCIを更に知るには,『
科学を計る:ガーフィールドとインパクト・ファクター 』(窪田輝蔵著 インターメディカル 1996)がお薦めです。
 さて,検索エンジンで高いシェアを誇る「グーグル」のページランクは,リンクを引用と見立て,Webページ間のリンク関係によってWebページの重みを解析しています。その結果,検索語に合致するだろうWebページが上位に表示されます。
 引用分析は,研究における関連論文調査からはじまり,大学ランキングの評価指標の一つとなり,更に,検索エンジンの表示順序の技術としても用いられるようになりました。情報技術が多方面に展開する好例といえます。


2018年10月号 -2- 業務分析
 戦後,新制大学が発足して大学と学生の数が増加するブルーオーシャン(競争のない業界)の時代は終焉を迎え,高等教育業界はレッドオーシャン(競争の激しい業界)の時代になりました。大学の図書館に目を向けると,青の時代に,図書館の蔵書と建物は,物理的・経費的に拡大し続けました。図書館の拡大傾向は「宿命」です。
 
学校教育法83条で,「大学は,学術の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」とあり,大学設置基準38条(図書等の資料及び図書館)に,「大学は,学部の種類,規模等に応じ,図書,学術雑誌,視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を,図書館を中心に系統的に備える」とあります。更に,適当な規模の閲覧室・書庫,学生の学習に十分な数の座席を備えると続きます。学部・学科や学生の増加に従い,図書館は成長・拡大します。
 経済も成長している青の時代ならばともかく,赤の時代においては,図書館は,一生成長を続ける恐竜のような非効率な生き物になりかねませんしかし,「図書館には,その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員その他の専任の職員を置く」ともあり,赤の時代における品質の維持・向上の条項が,踏み込んで基準を解釈すれば,きちんと組み込まれていることがわかります。また,「資料の提供に関して他大学図書館との協力に努める」と連携の方向も示されています。
 改めて品質の維持・向上と,資料提供の連携を再構築する際に,『
大学図書館の業務分析』(全国国立大学図書館長会議編 1968 日本図書館協会)が参考になります。この本には,用語の規定や解説,業務の具体的な内容,業務の専門性・困難性・責任性が分かりやすく記述され,業務改善と人材育成に活用できます。
 半世紀前の発行ですが,図書館の普遍的機能や,機能を実現する業務の土台を再発見できます。例えば,資料の収集・選択の章には,「この業務は,教官や学生の要求,カリキュラムの調査,学会の研究動向の把握,資料構成の検討,利用状況の分析,資料収集方法の調査などの一連の作業を基礎として行われる。(中略)大学の教育・研究活動に対する深い理解と広範な資料に対する専門的知識,ならびに適切な資料収集のための企画力が必要」とあります。現状から解釈すれば,電子ジャーナルの利用状況の把握,ネット書店からの資料購入も視野に入り,インターネットや電子メディアにも十分対応可能です。図書館運営に限らず,人員,経費を節減し,サービスを向上させる効率運営の実現に向うには良い本なのでお薦めです。


2018年9月号 -1- 四六答申
 本は,図書,雑誌,新聞,インターネットまでを含めたメディア全般を広く捉えています。同様に,大学は,就園前から学校,社会,地域までの生涯に渡る教育の全般です。また,図書館は,出版流通から書店と読者,更に,公民館や児童館などの社会教育施設など,「本」が置かれている施設や場所も含めたシステム全般です。
 改めて,初等教育から高等教育のあり方を俯瞰する際,47年前の『
教育改革のための基本的施策:今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について』(中央教育審議会答申 1971 194p)が参考になります。四六(よんろく)答申と呼ばれ,学校教育全般の施策のあり方と背景が丁寧に記述されています。
 
Googleでこの答申を探すと,文部科学省「過去の中央教育審議会」から,審議の経過と諮問理由説明を除いた,本文と付録の一部が閲覧できます。インターネット書店でもあるアマゾンからは,発行当時の350円に近い価格で購入することができました。参照したい資料を,自宅からインターネット閲覧でも,古書でも入手できる,ユーザー的には便利な時代になりました。大学図書館の図書や雑誌の所蔵状況を検索できる「CiNii Books 」(サイニィ・ブックス)では,全国約950大学・短期大学の図書館の数割が所蔵しているだけです。
 答申には図書館への直接の言及はありませんが,現代の図書館にける重要案件である,情報化社会(a),生涯学習(b),ラーニング・コモンズ(c)に繋がる記述があります。(a)高度技術化社会や社会の情報化への対応(p.128,136),(b)家庭教育・学校教育・社会教育の相互補完的役割を総合的に再編する生涯教育(p.12-3,126-7),(c)少人数での演習・実験による学生・教員の相互啓発(p.60)です。
 27年後の『
21世紀の大学像と今後の改革方策について:競争的環境の中で個性が輝く大学』(大学審議会答申 1998)では,「教室外における主体的学習の学習環境整備のために,図書館の座席数,必読図書の所要冊数の確保,開館時間や開館日,貸出期間などについて施設・設備利用面の整備への留意」を求めています。
 また,『
大学図書館の整備について(審議のまとめ):変革する大学にあって求められる大学図書館像』(2000 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会)では,大学図書館の教育活動への直接の関与を期待し「情報リテラシー教育では,図書館職員が教員を兼任するなどして、直接授業を担当することも視野に入れるべきである」(p.7)としています。
 現在の教育施策のルーツを探るため,四六答申の再読には大きな意味があるでしょう。